音楽の聴き方

「音楽は好きですか?」

こう質問されてNoと答える人はあまりいないと思います。
特に音楽をやっている方なら絶対にYesと答えるはずです。

では実際のところ、どのくらい音楽を聴いてるのか聞いてみるとこれが案外聴いてない人が多いのです。

「音楽はなんでも聴きます!なんでも好きです!」
と言うわりには特定のジャンル以外は一切耳を貸さなかったり、
一般の人にちょっと毛が生えた程度しか聴いてないパターンがあまりにも多すぎる。
それが素人さんや遊びで音楽をやっているのなら全然分かる話ですが
プロを目指すような人がそれではちょっとそれでは頼りないですし
プロでも得意ジャンル以外はビックリするくらい聴いてない人が意外と少なくありません。

世の中には自分が思っている以上に多くの音楽があります。
ですので音楽をやっている身であるのなら一日1枚、つまり月30枚は聴きたいところですが、
月10枚でも意外と聴くのがキツい人が多いようなのです。

自称音楽ヲタクの自分としては月10枚でも相当譲歩した数字のつもりですが
「音楽やってるなら月10枚は最低聴いておきたいよね」と言うと
「オカネガー」「ジカンガー」といった反応をされることが多く
中には「音楽くらい好きに聴かせろ!」と反発されたり
「そうですね」と口では言うけれども
実際には耳をかさないパターンも決して少なくありませんでした。

そんな反応をされる度に嫌いなことならともかく、
好きなことにどうしてそのくらいの手間やお金をかけること嫌がるんだろう…
とため息をつくばかりでしたが
最近はちょっと大人になりましたので
頭では音楽をたくさん聴く必要性はわかるけど、
どうしたらいいのかわからないという人のために
自称音楽ヲタクとして音楽の聴き方のコツのようなものを紹介させてもらおうと思います。

まず聴く音楽を3つに分けましょう。

1.楽しむための音楽
2.自分を鍛えるための音楽
3.リサーチのための音楽

なぜここであえて3つに分けているのかというと
全ての音楽を本気で聴こうとすればそりゃ時間なんていくらあっても足りません。
ミュージシャンである以上、少しでも多くの音楽に触れたいところですが
私たちが一生で聴ける音楽の数は限られているのもまた事実だからです。

ですので本で言うところの精読と流し読みを分けるように
音楽も楽しむための音楽と自分を鍛えるための音楽、
そしてリサーチのための音楽は分けた方がほとんどの人にとっては効率的かと思います。
もちろん時間もお金も有り余っている人にとってはその限りではありませんが。

では順番に説明していきますね。

1.楽しむための音楽

これは世間で言われている音楽鑑賞のことです。
これに関しては特に言うことはありません。
しかし重要なのは次です。

2. 自分を鍛えるための音楽

スポーツにもただ汗を流してエンジョイするためだけのスポーツと
トレーニングのためのスポーツの二種類があるように
音楽にも楽しむための音楽と自分を鍛えるための音楽があると思っています。
ほとんどの人がこの自分を鍛えるための音楽を聴いていない。

要は聴きたいか聴きたくないか、楽しいか楽しくないといった自分の好き嫌いでしか音楽を捉えてなく、
音楽を聴くことを通して成長出来るか、という視点が抜け落ちているということです。

考えてみてください。
軽々と出来る負荷で筋トレしても効果は一切ないように
楽に気持ちよく聴ける音楽だけを聴いてるだけではミュージシャンとしていつか限界がくると思いませんか?
もちろん素人さんや聴き専の人ならそれでもいいと思いますが
プロやプロを目指す人にとってはちょっと致命的ですよね。

自分に出来るか出来ないかのギリギリの淘汰圧をかけることで人間は成長します。
1セット10回がギリギリ出来るくらいが筋トレの適切な負荷であるように
ミュージシャンにもその時々で
筋トレでいう1セット10回や読書でいうところの精読に相当する
自分を鍛えるための音楽があると考えています。

そういった自分を鍛えるための音楽は楽しむための音楽と比べてみると
時には忍耐や背伸びが必要なことがあります。
正直最初のうちは初めて飲むアルコールのようにすんなりと受け入れられるものではありませんが、
あるポイントを過ぎると一気に世界が広がります。
例えるのならある程度の教養や背景知識がないと読めない本を読破出来たときの快感に近く、
楽しむことだけを基準にしている聴き方では絶対に得られない手応えを感じることができます。

楽しむための音楽は特に意識しなくても既に聴いていると思いますので
個人的にはこの自分を鍛えるための音楽を意識して実践してみることを推奨しています。

まず具体的な方法としては好き嫌いはひとまず置いておいて
聴くことを通して成長出来そうな音源をピックアップしてみることです。

自分の好きなアーティストのおすすめだったり、ルーツだったり、
世間で名盤とされている音源であったり、入り口はどれでもいいと思います。
もしかしたらそれまで楽しむためだけに聴いていた音楽も
本で言うところの精読のように聴けば自分を鍛える音楽になるかもしれません。
もし現在の自分にとっての鍛えるための音楽がわからないようでしたら
習っている先生や音楽に詳しい友達や先輩に相談してみるのも手です。

とにかく好き嫌いよりも成長出来るかがキーワードです。

そのなかで一回目ですんなり聴ける作品もあれば、
何度聴いてもイマイチわからない作品もあるかと思います。
だからといってすぐに聴くのを止めてはいけません。
わからない理由はその作品が悪いのでなくて、

まだ自分の感性が未熟だからではないか?

という視点も持ってみてはいいのではないかと思うからです。
事実、私も昔はサッパリわからなかったけど今は大好きな作品がたくさんありますし、
似たような経験をしたことがある人は決して少なくないと思います。

これは自分の感性を信じるなとか卑下しろということではありません。
音楽を聴いている人のほとんどが自分の好みに音楽を合わせることが多いですが
自分から音楽に歩み寄ってみる謙虚さや根気があってもいいのではないか、ということです。

逆にそのような歩み寄りが出来ないのであればその人は音楽が好きなのでなく
自分の好きな音楽が好きなだけ、なのではないでしょうか?

音楽は音を楽しむと書きますが「楽」という文字は決して「らく」をするという意味ではないと思います。
むしろ面倒そうな音楽への歩み寄りのプロセスすらも
楽しめるかどうかといった意味合いも含まれていると思いますし、
ミュージシャンにとってある意味で技術よりも重要な資質だと私は考えています。

事実、自分はこの作品に育ててもらった
といった趣旨の発言をする著名ミュージシャンは決して少なくありません。

当然、聴き続けた結果、わかる音楽もあればわからないままの音楽もあるかと思います。
しかし重要なのはわかったかどうかという結果よりも
途中のわかろうと音楽と向き合ったプロセスであり、
それこそがミュージシャンの成長のために不可欠だと思うのです。

自分の成長のために作品と向き合うプロセスを踏める人は音楽を様々な角度から聴くことができるため、
ただ好き嫌いだけで音楽を聴いてる人に比べて圧倒的に厚みや深みがあります。
当然自身の作品作りや演奏にも直結するのは言うまでもありません。

もちろん人によっては楽しむための聴き方と鍛えるための聴き方をミックスした聴き方や
意識しなくても自分を鍛える音楽を聴くのが習慣になっている方もいるかと思います。

自分がそのようなタイプだと思う方はそのまま継続してもらってかまいませんが、
もしも自分が楽しむための音楽の聴き方しか出来てなかったり、
特定のアーティストやジャンル以外は一切興味を示さないという自覚があるようでしたら、
是非この自分を鍛えるための聴き方も実践してみてください。

間違いなく世界が広がります。

3.リサーチのための音楽

私の場合、特に聴くべき必然性を感じなくても
流行っていたり、話題なもの、世間で名盤と呼ばれているけどまだ手を出していない作品など、
リサーチのために聴いてみる音楽がこれに相当します。

ただこの聴き方は自分を鍛えるための音楽とは違って
リサーチやチェックが目的なので時間をかけて繰り返し何度も聴く必要はないと思います。
新聞やニュースで世の中の動向や時代の流れをチェックしたり、
本でいう流し読みと同じような感覚で接してもらって大丈夫です。
なぜなら自分を鍛えるための音楽と違ってリサーチ、つまり情報収集がメインだからです。
もちろんそこでもし引っかかった作品があればじっくり聴いてみてください。

CDもわざわざ買わなくてもTSUTAYAとかでレンタルする程度でも充分でしょう。
10枚借りたとしてもクーポンなど使えば2000円以下で借りれます。

2000円ですよ、2000円。

飲み会を一回我慢すれば余裕で捻出できるお金です。
月10枚CDを新品で買えば2、3万はかかるし、
月30枚なら7〜9万は単純計算でかかることになりますので
基本的に貧乏なミュージシャンに
月にこれだけの金額をCDにかけろと言うのは確かに酷なことなのかもしれませんが
月2000円をレンタル代にまわすくらいはそんなに大変ではないはずです。

もしかしたら10枚に1枚くらいはアタリな音楽に出会えるかもしれないし、だからこそのリサーチです。
そしてその1枚が自分の世界観が変わるような作品かもしれないし、
とてつもなくハマるくらい楽しめる作品かもしれない。
作品的にはピンと来なくても音楽関係者との話のネタにはなるかもしれない。
そう考えたら2000円なんてほとんどタダみたいなものです。

もし本当に2000円も出す余裕がないようならyoutubeでもいいです。
そこでちょっとでも気になったアーティストはとりあえずチェックしてください。
たいていの音楽にすぐにアクセスできるはずです。
しかも無料で。
自分が10代の頃にyoutubeがあったのならどれほど良かったか!
本当に今の若者が羨ましい限りです。

さらに今はスマホの時代です。
いつでもどこでもあらゆる情報にアクセスが可能です。
友達とメールしたり、アプリで遊んだり、まとめサイトをチェックしたり、
飲酒運転なうとかバカ発見器に使うのだけがスマホの使い方ではありません。
気になったアーティストやアルバムをメモして、
それをGoogleで検索することも
Youtubeで動画を観ることも、
Amazonで買い物することも、
いつでもどこでも可能なのにほとんどの人が有効活用出来ていないのは本当にもったいない…

本来、自分の成長のためにはお金を惜しむべきではありませんが
もし本当にお金がないのならその分、時間や手間を使う。
現在はそれが誰にでも実現可能な素晴らしい時代ですし
そのためのアイデアは考えようによってはいくらでも浮かぶと思います。

音楽をなぜ聴くのか?

その理由や動機は音楽を聴きたいから、音楽が好きだからに決まっていますね。
しかし文字通り聴きたい音楽だけ、好きな音楽だけしか聴いていないと
自分の興味の範囲内でしか音楽を捉えられない可能性があります。
例えるのなら友達や同僚とダベっているのと近い、
馴れ合いのような付き合い方を音楽としてしまう危険性があるということです。

それってとんでもない機会損失だと思いませんか?

確かに居心地は悪くはないかもしれませんが成長という点では疑問符がつきますよね。
そんなときは普段は付き合わないような人との出会いがブレイクスルーとなるように
いつもは聴かない音楽を意識的に聴こうとするのは悪くないことだと思います。

音楽は簡単にコピーできる時代になりましたが
音楽と向き合った体験はその人だけのものです。
絶対にコピー出来ません。

そんなコピーできない体験をたくさんしておくことは
ミュージシャンの成長とって大事な栄養になることは間違いありませんし、
それもまた音楽の楽しみ方の一つではないかなと私は考えています。